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fly with the wind
osamu's RC flight
エッセイ
風を見ながら

6.簡単そうでむずかしい!

 ラジコンにもいろいろあるが、もっともむずかしいのがヘリコプター。ヘリコプターの基本はホバリング(空中停止)。空中に静止しているように見えるので、簡単そうに見えるが、やってみるとこれがものすごくむずかしい。

 筆者は2005年1月に初心者向けのXRB SRラマ(ヒロボー)という電動室内RCヘリコプターに挑戦したが、ホバリングできるまで7日間かかった。次いで挑戦したハミングバードCP(センチュリーヘリコプター)では、調整も含めてなんとかホバリングできるようになるまで約1ヶ月かかった。T-REX450、MX400では風のある屋外でホバリングできるようになるまで約3ヶ月かかった。

 それでも、まだ一定高度を維持するのがむずかしく、およそ20~30cmの範囲で上下してしまう。糸で吊ったようにピタッとはとまらず、ゴムで吊ったような状態。前後左右方向はほぼ止めることができるが、そのためには機体の姿勢変化を観察して、ちょっとでも動く気配が見えたらすぐに舵を打って補正し、姿勢を維持しなければならない。これにはかなりの集中力が必要で、ちょっとでも集中力が途切れると機体は前後左右に大きく動いてしまう。

 実物のヘリでも同じだそうで、あるウェブページには「ホバリングの練習を始めた直後は、サッカー場ぐらいの範囲を動き回るといわれている。自分はラジコンヘリをやっていたのでテニスコートぐらいの範囲でホバリングできた」という記事があった。だから、よくニュースで見る山岳救助などでホバリングしているヘリのパイロットはものすごい技量を持っているのだ。そしていくら高度な技量があっても、風が強くなるとホバリングは無理。不規則な風の影響下では機体をある空間に維持することができなくなる。

 またRCグライダーやRC飛行機、RCヘリすべてに共通するのは離陸よりも着陸がはるかにむずかしいということ。速度を落とし、なめらかに地上に接するようにコントロールしなければならないが、これまた見かけよりもはるかに難しく、集中力を要する。

 飛行機やグライダーの場合、着陸は風に正対して行うのが原則だが、風の強さによって見かけ上の速度(対地速度)は変化するから、風を読んで高度を調節しつつ、着陸させなければならない。たとえば秒速5mで滑空するグライダーが、無風状態で着陸するときには対地速度も秒速5mとなる。しかし秒速2mの風が吹いていると、対地速度は秒速3mになり、ゆっくり飛んでくるように見えるのだ。さらに風が強くなると、風に正対してほとんど止まっているように見えることさえある。

 だから風が吹いているときは、どうしても着陸エリアのはるか手前に降りてしまうことが多い。特に動力を持たないグライダーの場合は神経を使う。エンジン飛行機や電動グライダーなら、もし高度の目測を誤って着陸エリアの手前に着陸しそうになったらプロペラを回して高度を取り、やりなおすことができる。しかしグライダーは動力がないのでやり直しができない。一発勝負だから緊張する。

 そして最後の接地も重要。ほんのわずかな操作ミスで機体がドスンと落ちて胴体が壊れたり、主翼から接地して主翼を壊すことがある。水平を維持し、最後の最後にエレベーターをわずかに引いて機体を水平にし、すべるように着陸できたら立派なもの。きれいな着陸にはギャラリーから拍手が起こることもしばしばだ。

 ヘリの場合は上空飛行からホバリングに移行し、ゆっくり下ろすのだが、最後の接地の瞬間には気をつかう。ここで機体が傾くと、ローターが地面をたたいたりするからだ。

 筆者はたまに旅客機に乗ると、着陸時に一番緊張する。降下率は速すぎないか、機体は水平か、接地直前の引き起こしは適切か、などなど気になってしまう。特に成田空港で横風で着陸するときなどは大変だ。機体が風によって横に流される量をラダーとエルロンで補正しながら滑走路にまっすぐに進入する必要があるからだ。地表付近の風は乱れているが、速度を落とすためにフラップを下げたりすると機体は巡航時よりも不安定になる。特に接地直前に機首を上げた状態では失速すれすれで非常に危険だ。熟練したパイロットが細心の注意を払い、全身全霊を集中して操縦してはじめてきれいな着陸が達成できる。
 だから多少、ドスン、ドスンとバウンドして着陸しても、筆者は機長には尊敬の念を禁じ得ない。地表付近の風の状況によっては、なめらかに接地できないことがある。技量の低いパイロットなら、もっと大きくバウンドしたかもしれないのだ。

 簡単そうでむずかしい。これは飛行機やヘリに限らず、おそらくすべての仕事、職業にいえることなのだろう。

05.04.01
last modified: 08.08.09

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