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fly with the wind
osamu's RC flight
エッセイ
風を見ながら

4.模型飛行機は本を読まない

 世の中には実力や経験ではなく、生まれや学歴、あるいは地位がモノをいう世界がある。しかしスポーツの世界や将棋の棋士の世界は実力と経験で決まる。

 RCグライダーもスポーツの一種で実力と経験の世界だ。これはまずパイロットにいえる。社会的立場や年齢に関係なく、優れたパイロットは正当に評価され、尊敬される。いくら知識が豊富で蘊蓄があっても、いざ飛行となると危なっかしい飛ばし方しかできないような人物はそれなりの評価を受けることになる。

 もちろん小さな模型飛行機とはいえ、物理学の法則によって設計・製作され飛行しているので機体構造や飛行に関する基本的な知識は必要だ。しかしもし「理論か実践か」と問われれば筆者は「実践」と答える。特にRCグライダーの場合は風や天候の変化の読みが不可欠で、これは同じ場所でも季節によって異なるから年間を通じて飛行経験を積んでいかなければ身につかない。

 実力と経験の世界というのは機体についてもいえる。いかに斬新なデザインでも、また能書きがもっともらしくても、よく飛ばない機体は人気がなくなる。

 ただし非常にすぐれたパイロットは多少性能的に問題のある機体でもうまく飛ばしてしまうので、フライト・ショーやページェントでは注意が必要だ。特に国際大会の競技用に設計された電動グライダーなどは操縦が極めてむずかしく、また軽量化のために強度を必要最小限にとどめているので中級者レベルのパイロットが飛ばすとまともに飛ばなかったり、着陸時に破損する確率が高くなる。動力用バッテリーも、電池メーカーがサポートし、選別されたセルをパックし、限界ギリギリまで使うので、一般的なフライヤーには真似ができない。

 機体の設計・デザインには流行やトレンドがあり、必ずしも実力=性能優先とは限らない。たとえば、かつては胴体の上に水平尾翼が位置し、その上に垂直尾翼が位置する機体が一般的だったが、やがて実物グライダーにならってT尾翼形式が主流となった。しかしT尾翼は尾部が重くなるところから、次にV尾翼が主流となった。V尾翼は尾部を軽量化でき、空気抵抗も少ないとされた。しかしV尾翼は設計によっては不安定になったり操縦性に難があるため、最近ではまた従来型の水平尾翼と垂直尾翼の方式(十字形式、クロステールなどと呼ばれる)の機体が登場してきている。

 また翼型(翼の断面。airfoil, profile)にも、ある種の流行というか、はやりすたりがある。確かにグライダーの性能は翼型によって大きく左右されるが、現在のRCグライダーの材質と製作の技術レベルでは主翼の表面精度はそれほど高くないので、どこまで翼型が正確に再現されているか疑問もある。仮に高精度の金型で主翼を製作しても、型から取りだした後に樹脂の収縮などによる変形は避けられず、型の精度を維持することは困難だ。それでもRCグライダーには翼厚や湾曲が微妙に異なるさまざまなタイプの翼型が用いられている。

 古くはNACAの各種翼型やクラークYが用いられていたが、やがてE(リヒャルト・エップラーRichard Eppler)、HQ(ヘルムート・クヴァベックHelmut Quabeck)、RG(ロルフ・ギルスバーガーRolf Girsberger)、SD(セリグ/ドノバンM. Selig/J. Donovan)の系列が用いられるようになった。最近はMH(マルティン・ヘッパールMartin Hepperle)、HN(ノルバート・ハーベNorbert Habe)などに人気があるようだ。

 型で製作されたGFRP/CFRPの主翼では翼型の違いもある程度は出るとは思うが、リブ組や発泡板貼りの主翼では細かい違いは出てこないだろう。筆者の経験では、10%以上の厚翼でカンバーが大きめ、前縁丸み半径の大きい翼型はスピードは乗らないが低速安定はよく、翼厚が8%以下の薄翼でカンバーも小さめ、前縁が尖った翼型はスピードは乗るが失速しやすく低速安定が悪い、ということが実感できる程度だ。ただし飛行速度(基本的には翼面荷重に依存する)や安定性は主翼の平面型や重心位置、尾翼容積、舵角設定によっても大きく変化し、さらにパイロットのセンスや技量によって最終的な飛行性能が決まるので、どこまでが翼型固有の性質によるものなのかは判断がむずかしい。

 さて理論と実践はバランスが大切だが、RCグライダーに関しては前述のように実践的なアプローチの方が有効に思える。現代は航空力学に関して膨大な研究がなされているが、それはほとんどが実物の、つまり人間が乗るサイズの航空機を開発するための研究だ。これはそのまま小さな模型飛行機やRCグライダーに適用できない。

 たとえば空気は粘性を持つのだが、これは機体が大きかろうと小さかろうと変化しない。そのために実物の航空機をそのまま縮小しても空気は縮小されないから飛行性能が大きく変わってしまうのだ。また模型は実物よりもはるかに低速で飛行する。その結果、模型は失速しやすく、揚力も十分に発生しない(この空気の粘性、気流方向の翼の長さ、飛行速度の関係はレイノルズ数という指標で表されるが、RCグライダーは実物のグライダーよりもはるかに小さなレイノルズ数の領域で飛行していることになる)。RCグライダーの飛行速度に近い低速の風洞実験も行われているが、実際に模型が飛行する野外ではRCグライダーにとっては気流が一様に流れずに乱れやすく、低速風洞で得られた結果が適用できないのではないかとの疑問もある。

 このため、実物の航空機を開発するための流体力学的研究は模型にはあまり役に立たないようだ。かろうじて工法や素材の面で、カーボンファイバーやグラスファイバーを使用したシャーレ工法などがRCグライダーにも用いられている程度。そして機体の飛行性能となると、結局は飛ばしてみなくてはわからない、というのが実状だ。

 ところで、アメリカのRCグライダー設計者トム・ウィリアムズ Tom Williamsは次のような言葉を残した(記憶によるので違っているかもしれない)。

Model airplane doesn't read books.

 直訳すれば「模型飛行機は本を読まない」で、言わんとするところは「難しい理論書を読んでも、よい性能のRCグライダーができるとは限らない」ということ。彼は「航空力学の理論が必ずしも模型飛行機に当てはまるとは限らず、自分は経験に基づいて設計した」といいたかったのだ。

 これはいかにも実践重視・プラグマティズムのアメリカらしい言葉。対するドイツはRCグライダーの世界でもしばしば理論偏重の傾向があり、それぞれのお国柄として興味深い。

 ところで、もうひとつ筆者の好きな言葉。米トップフライト社 TopfliteのメトリックMetrickというRCグライダーキットの取説に出ていた言葉だったと思うが、「RCグライダーの上達方法」として

Practice, Practice, Practice

 と書かれていた。これは「練習、練習、練習」あるいは「実践、実践、実践」という意味。何ごとにつけ、知識や蘊蓄を身につけるだけではダメで、場数を踏むこと、経験を積むことが大切だ。

関連サイト:
UIUC Airfoil Coordinates Database
 イリノイ大学の翼型データベース。膨大な数の翼型の座標データが得られる。

04.03.05
last mdified: 13.04.24

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